男はデスクに肘をつき、ブラインドを開けられた窓を背にしている。その男と向かい合い、スーツ姿の青年が直立していた。
「それは確かな情報なのか」
部屋の中央に立つ部下の報告を聞き、男はそう呟く。逆光のせいで、顔の半分は影に包まれているが、鋭い眼光だけは隠れることなく相手を捕らえていた。
男の台詞に対し、青年は無言で頷く。
「………ふむ」
男が椅子に体重を預ける。そして黙想するように目を閉じた。
「それが本当だとすれば、由々しき事態だ。危険という意味ではない。一秒の時間を惜しみ、早急に決断を要す、ということだ」
「僕が行きますか?」
青年はよどみなくそう答える。だが男は首を横に振った。見開かれた目は、威嚇するように青年に刺さる。
「君が心配する必要は無い。適任者は既に選出済みだ。ご苦労だったな、下がりたまえ」
男は青年の言葉を切り捨てると、顔色一つ変えずに退室を命じた。横暴ともとれる態度だったが、青年は文句の一つも言わずに、その言葉に従った。男に一礼をしてから踵を返し、部屋を出て行った。
一人になった男は、腕を組んで天井を見上げる。しばらくの間考え込むようにその姿勢を維持していた。一人で、男の脳は何を思い描いたのか。引き結ばれていた男の口元に笑みが浮かぶ。
「面白くなりそうだ」
独白は誰にも聞かれること無く消えていった。