UNDER HEAVEN 001



 人気の無い、裏路地の奥にその店はある。

 嫌がらせのように十三段ある階段を下りて、見える扉の上には「UNDER HEAVEN」というネオンがある。

 

 今夜も、この扉に手をかける者が一人。

 

 

「お久しぶりですネ、一年ぶりですか、先生」

「ほう、もうそんなになるのかね。いや、年を取ると月日が経つのが早いよ」

 軽薄な男の声に、柔和な老人の声が響く。

 二人の顔には優しい笑みが浮かび、再会を喜び合っていた。

「君は変わらないな、八神くん。学生の頃のままだ」

「老けないのが取り得ですからネ。さ、今日は何にしますか?」

 男は棚から「近藤」と札の掛かったジンのボトルを取り出す。

「君に任せるよ。今日の私に合ったカクテルを頼む」

 老人の言葉に笑みを見せて、男がカクテルを作り始める。シェーカーの音が小気味よく店内に響き渡る。

 差し出されたグラスには、鮮やかな朱色のカクテルが注がれていた。

「グッド・ナイト≠ナす」

「ほぉ、これは…」

「ええ、僕が先生に初めて飲ませてもらったカクテルですね」

 老人が照れたように微笑む。

「では、どれだけ腕が上がったか、試させてもらおうかね」

 そういうと、老人がカクテルを口に含む。

 老人が眉根を寄せる。

「困ったな。これでは師匠の立場が無いというものだ」

「光栄ですネ」

 男は子供のように笑った。そして独白のように言う。

「人間は変化する。変わらずに生きていくことは出来ない。変化を嘆くのではなく、前へ進む力に変えるべきだ=v

 男の言葉に、老人が目を見開く。

「先生がこのカクテルと共に、僕に言った言葉ですネ。今の先生にピッタリではないですか?」

「………知っていたのかい?」

「顔に書いてありますよ」

 微笑む男に、老人は肩をすくめる。

「まるで魔術師だね、八神くん」

「光栄ですネ」

 男はにっこりと微笑んで、ジンのボトルをこつん、と叩く。

「しばしの良い夜を楽しんでください、先生」

 

 


一夜の物語・一話。
 
何に時間がかかったかと言うと、カクテルを調べるのに小一時間。うああ。







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