赤の残滓



 真っ白な病室が、いまの俺の居場所だ。

 

 体の傷は、もうほとんど癒えた。むしろしばらく動かしていなくて体がなまっている。

 昨日軽く運動していたら、看護婦にボディを食らって病室に担ぎこまれた。なまっている証拠だ。

 俺はまだ少し痛む腹をさすりながら、ぼーっと窓の外を眺めている。

 外は、春の空気に満ちている。

 暑くもなく寒くもない。人が穏やかに過ごせる季節。病室の清潔な空気の中でその景色を見ると、また違った趣がある。

 柄にも無く感傷的な自分に、俺は自嘲した。

 

 景色を眺めるのに飽きた俺は、ベッドに寝転がる。視線は自然と真っ白な天井に向く。

 その曇りなき色が、自然と俺の記憶を刺激した。

 

 真っ白で、穢れの無かった少年。

 出会いと別れが、傷を増やして、心をわずかに赤く染めた。

 最悪の選択は、俺の世界を漆黒にした。

 闇の中で真紅に染め続けた道に、ようやく終わりが来た。

 そしてまた俺は、この白い世界に居る。

 

 けどこの色は、濁ったキャンバスを塗りつぶした白だ。

 だが、今まで築き上げてきた過去に、俺なりのけじめがつけられた。そう思いたい。

 全てを忘却など出来ない。

 忘れることなど、自分自身が許さない。

 

 

 けれど、過去に縛られることに意味は無い。

 消すことの出来ないものならば、それを飲み込んでいくことが、過去を向き合うということだ。

 

 過去は人を救わないが、人は過去を救える。

 今はそう思う。

 

 

 俺は生きていく。

 罪も罰も、何もかもを全て背負って。

 

 自己満足でもいい。

 あいつの分まで生きる。

 それが俺に出来る、たった一つの贖罪だから。

 

 


「過去は人を救わないが、人は過去を救える」
このフレーズが使いたいが為に急遽創作。
 
こういうエセ格言っぽいものを考えるのは大好きです。







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