「………いいのよ。別に期待していたわけじゃないし」
声に出して、自分を誤魔化す。
心を否定する。
淡い期待など無かったかのように。
「……そうよ。これでよかったのよ。後腐れがなくていいじゃ…ない………」
必死で塗りつぶそうとしても、とめどなく溢れ出す。
声を出すことすらできなくなった。
悲しみが、溢れ出す。
「………」
両手で顔を覆う。
感情を押し殺すように。
けれど溢れ出す涙。止まらない嗚咽。
「……………ひどいよ」
「何がだ」
驚いて顔を上げた先には、見慣れたアイツの顔。
すぐさま手が顔を覆う。
「見んな馬鹿。どっか行け」
「生憎と俺は女性には優しい男なんだ」
「なおさらどっか行け、馬鹿。大馬鹿」
「傷つくなぁ」
埒があかないと思って、私はこの場から立ち去ろうとする。
通り過ぎようとした瞬間に、聞こえる声。
「泣きたいときは泣いとけよ。後でツライから」
私の足が止まる。
馬鹿で間抜けで空気が読めなくて、ただの腐れ縁の男なのに。
言葉だけはいつも優しくて。
私は彼の胸で泣いた。
ベタな恋愛ストーリー練習編。
素直になれない関係が好きです。
でも実際にそうだったらきっとツライだろうな、と思います。