D-RPG第五話 「終焉」



 四発の銃声で決着した。

 地鳴りのような音と共に倒れるのは、怒羅江門だ。

 僕は激しく脈動する心臓をなんとか制御する。左腕の感覚は無い。完全に砕けたようだ。神経を断裂された痛みが脳を焼くが、堪える。

 ゆっくりと倒れた怒羅江門に近づき、僕は銃を突きつけた。

「……君の勝ちだね、ノビタくん」

 敗北を受け入れた彼の顔は、どこか爽やかにさえ見えた。

「命乞いなどはしないよ。さぁ、撃ってくれ」

 怒羅江門が瞳を閉じる。

 一秒。

 二秒。

 三秒。

 何秒経っても、最後の引き金は引かれなかった。

 

 

 ぽとり。

 ぽとり。

 

 

 地面に倒れた青い体に、水滴が落ちる。

 それは僕の涙だ。

 

 

「……撃てないよ。僕には撃てない」

 僕の言葉が、怒羅江門の瞳を開かせる。

「………君は忘れたのかい。ボクはもう、友達じゃないんだよ」

 僕は首を横に振る。必死で否定する。

「殺そうと思えば、左腕ごと僕の頭を吹き飛ばすこともできたはずだ!!」

 怒羅江門は答えない。その鉄面皮は変わらない。

「……帰るんだ、怒羅江門。僕たちと一緒に……」

 銃をホルスターに戻した僕は、手を差し出す。

 怒羅江門の表情が歪む。

「帰ろう……」

 

 

 怒羅江門は、小さく首を横に振った。

 

 

「出来ないよ。それは出来ないんだ」

「……たとえ世界中の誰もが君を認めなくても、僕だけは君の味方だ。君を悪く言う奴がいたら、僕は闘う」

 僕はぎっと拳を握る。

「僕が、君を護る」

 怒羅江門が微笑む。嬉しいけれど悲しい。そんな顔で。

 もう一度彼は首を横に振る。

「時間保護法と、ロボット三原則を侵した僕は、もうすぐ時空警察に逮捕される。行き着く先はスクラップ工場さ」

「そんなこと、僕がさせないッ!!」

「君なら分かるだろう? たった一人の力で出来ることには限りがある。ここまで君が来れたのは、君一人の力じゃないだろう」

 怒羅江門の言葉は真実だ。

 仲間達がいなければここまで来れなかった。

「……………どうにもならないのかい?」

「どうにもならないよ。ボクは結局死ぬのさ」

 僕は歯を食いしばる。

 無念に。

 歯がゆさに。

 後悔に。

 自分の無力さに。

 

「……ノビタくん。お願いがあるんだ」

 怒羅江門が呟いた。

「どうせ破壊されるのなら、ボクはここで死にたい。機械のボクは土に返ることはないけど、無機質な処理場に送られるのは嫌なんだ……」

「………」

「ボクの最後のわがままだ。聞いてもらえないかい?」

「………」

 僕はゆっくりと、ホルスターから拳銃を取り出す。

 撃鉄を起こし、銃口を再び額へと向けた。

 怒羅江門が微笑む。ひどく満足げに。

「……怒羅江門……」

 僕は微笑んだ。彼に負けないように。

「………………………………ありがとう」

 僕は引き金を引いた。

 

 

 

 ………もう一人で大丈夫だね……ノビタくん…………

 

 

 

 こうして僕の旅は終わった。

 

 古城には静寂が戻り、まるで何事も無かったかのように佇んでいる。

 けれどこの記憶だけは、僕らから消えることは無いのだろう。

 かけがえのない仲間たちを。

 そして、永遠に失った友達を。

 僕の心はいつまでも覚えているのだろう。

 

 古城の中庭に、僕は一つの墓標を立てた。

 彼が生きた証を残してあげたかったから。

 

 持ち主を失った赤い首輪が、十字架へとかけられている。

 

 一陣の風が吹き、鈴音を古城に響かせた。

 

 


D-RPG五話。
 
終わりです。
内容はともかく書ききったので僕は満足です。







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