地鳴りのような音と共に倒れるのは、怒羅江門だ。
僕は激しく脈動する心臓をなんとか制御する。左腕の感覚は無い。完全に砕けたようだ。神経を断裂された痛みが脳を焼くが、堪える。
ゆっくりと倒れた怒羅江門に近づき、僕は銃を突きつけた。
「……君の勝ちだね、ノビタくん」
敗北を受け入れた彼の顔は、どこか爽やかにさえ見えた。
「命乞いなどはしないよ。さぁ、撃ってくれ」
怒羅江門が瞳を閉じる。
一秒。
二秒。
三秒。
何秒経っても、最後の引き金は引かれなかった。
ぽとり。
ぽとり。
地面に倒れた青い体に、水滴が落ちる。
それは僕の涙だ。
「……撃てないよ。僕には撃てない」
僕の言葉が、怒羅江門の瞳を開かせる。
「………君は忘れたのかい。ボクはもう、友達じゃないんだよ」
僕は首を横に振る。必死で否定する。
「殺そうと思えば、左腕ごと僕の頭を吹き飛ばすこともできたはずだ!!」
怒羅江門は答えない。その鉄面皮は変わらない。
「……帰るんだ、怒羅江門。僕たちと一緒に……」
銃をホルスターに戻した僕は、手を差し出す。
怒羅江門の表情が歪む。
「帰ろう……」
怒羅江門は、小さく首を横に振った。
「出来ないよ。それは出来ないんだ」
「……たとえ世界中の誰もが君を認めなくても、僕だけは君の味方だ。君を悪く言う奴がいたら、僕は闘う」
僕はぎっと拳を握る。
「僕が、君を護る」
怒羅江門が微笑む。嬉しいけれど悲しい。そんな顔で。
もう一度彼は首を横に振る。
「時間保護法と、ロボット三原則を侵した僕は、もうすぐ時空警察に逮捕される。行き着く先はスクラップ工場さ」
「そんなこと、僕がさせないッ!!」
「君なら分かるだろう? たった一人の力で出来ることには限りがある。ここまで君が来れたのは、君一人の力じゃないだろう」
怒羅江門の言葉は真実だ。
仲間達がいなければここまで来れなかった。
「……………どうにもならないのかい?」
「どうにもならないよ。ボクは結局死ぬのさ」
僕は歯を食いしばる。
無念に。
歯がゆさに。
後悔に。
自分の無力さに。
「……ノビタくん。お願いがあるんだ」
怒羅江門が呟いた。
「どうせ破壊されるのなら、ボクはここで死にたい。機械のボクは土に返ることはないけど、無機質な処理場に送られるのは嫌なんだ……」
「………」
「ボクの最後のわがままだ。聞いてもらえないかい?」
「………」
僕はゆっくりと、ホルスターから拳銃を取り出す。
撃鉄を起こし、銃口を再び額へと向けた。
怒羅江門が微笑む。ひどく満足げに。
「……怒羅江門……」
僕は微笑んだ。彼に負けないように。
「………………………………ありがとう」
僕は引き金を引いた。
………もう一人で大丈夫だね……ノビタくん…………
こうして僕の旅は終わった。
古城には静寂が戻り、まるで何事も無かったかのように佇んでいる。
けれどこの記憶だけは、僕らから消えることは無いのだろう。
かけがえのない仲間たちを。
そして、永遠に失った友達を。
僕の心はいつまでも覚えているのだろう。
古城の中庭に、僕は一つの墓標を立てた。
彼が生きた証を残してあげたかったから。
持ち主を失った赤い首輪が、十字架へとかけられている。
一陣の風が吹き、鈴音を古城に響かせた。
D-RPG五話。
終わりです。
内容はともかく書ききったので僕は満足です。