タケシの突き破った扉が派手な音と立てて開く。
開かれた僕らの視界には、玉座がある。
そしてそこには、傲岸不遜といった表情でこちらを見ている一人の男。
「怒羅江門!!」
僕はその名を呼ぶ。
謁見の間に鳴り響いた声は、しっかりと届いていた。
『怒羅江門(DORAEMON)』は口元を吊り上げて笑う。
「待ってたよ……ノビタくん」
ゆっくりと怒羅江門は玉座から立ち上がり、こちらへと近づいてくる。その足が、前へと進むたびに、内臓がきしむような圧力が襲う。
タケシがそれを振り払うように叫ぶ。
「怒羅江門ッ、いい加減目を覚ませよッ!!」
「ボクは夢を見ないよ……機械だからね…」
スネオが叫ぶ。
「怒羅江門ッ、何で殺しあうんだ!!」
「闘争に理由が必要かい……」
シズカが叫ぶ。
「怒羅ちゃんっ、私たちは友達でしょう!」
怒羅江門の歩みが止まる。
彼は困ったように顔をすくめて、こういった。
「どうして幻想にしがみつくんだい…?」
シズカの表情が凍った。
怒羅江門の指先が一本立てられる。
「ボクは君たちに一つの大きな嘘をついている。何だと思う?」
全員が沈黙する。ただ一人、怒羅江門だけが言葉を続けている。
「いいかい、ボクは未来からやってきた。だが、そこにいるノビタくんのためじゃない」
「………」
「ボクのマスターはあくまでセワシくんだ。そしてボクの存在の全てはセワシくんの為にあるんだよ」
「……僕を更正させる、ということが……嘘なんだね」
ひどく、残酷な真実。
僕の告げた言葉は、仲間達の時間を止めた。
パチパチ
「正解だよ、ノビタくん」
気の無い拍手と共に聞こえた怒羅江門の声。
「ボクは君を殺すために未来から来た。後世のことを考えて、心優しいマスターは、この劣性遺伝子を抹殺することにしたのさ。ノビタ、君という人間の劣悪種をね……」
その言葉はひどく僕の耳に響いて。
その言葉はひどく僕の心を裂いて。
その言葉は、僕らの決別を意味していた。
「うううおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
タケシが石床を砕くように駆け、怒羅江門に戦斧を振り下ろす。人間を軽く両断できるその一撃は、怒羅江門に片手で止められていた。
「怒羅ァァッッッ!!」
叩きつけた左拳はタケシの戦斧を粉々に砕き、驚愕する間も与えず繰り出した右拳は、タケシを石床に埋め込んだ。
「嗚呼アアアァァァァ!!!」
スネオが雄叫びと共に数十本のナイフを怒羅江門に降り注がせる。
「怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅ーーーー!!!!」
拳の弾幕がナイフの全てを叩き落す。
「ッアアア!!!」
接近しつつワイヤーを繰り出すスネオ。触れれば肉を裂く無数の糸を、怒羅江門は軽々とかわしつつスネオに接近していく。
だがスネオの顔に浮かんだのは、焦りではなく笑いだった。
スネオが左手を勢いよく引くと、極細の鋼線で繋がっていたナイフが怒羅江門の体に巻きつく。完全に動きを封じた。
「もらったァァァァ!!」
ありったけの爆薬を投擲するスネオ。轟音と炎に包まれ、怒羅江門の姿が消えた。
勝利の笑みを浮かべるはずのスネオの顔が凍りつく。
「……シークレットウェポン『縮尺自在』 惜しかったね…」
背後から拳の乱打を食らい、スネオが壁へと吹き飛ぶ。
「タケシさん、スネオさんッ!!」
治療に駆け寄ろうとしたシズカの眼前に、怒羅江門が立ちふさがる。
絶句するシズカに、怒羅江門はにっこりと微笑んだ。
「それは卑怯だよ、シズカちゃん…」
首筋に優しく当てた怒羅江門の指は、シズカの頚動脈を圧迫して、気絶させた。
三人が倒れた謁見の間。
僕はゆっくりと銃を折る。弾丸が排出された。
「……殺さなかったんだね、怒羅江門……」
右腰から強装弾を取り出し、弾倉に詰めなおす。
「最後の決着は、キミと二人でと思ってね……」
ガコンと両拳を打ち合わせる怒羅江門。
僕はそれと同時に銃身を戻して、再装填を終える。
「……いままで楽しかったよ……怒羅江門……」
「ボクもだよ、ノビタくん………」
ひどく優しい言葉。
それが僕らの友情の最後だった。
「怒羅江モォォォォォォォォォォォォンッッ!!!」
「ノビタクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッ!!!」
D-RPG四話。
熱いです。激しいです。次がラストです。
いま見返すとなんて王道ストーリーなんだ。