地面から噴出してきた金色の髪に、僕の四肢は拘束された。
「ノビタぁッ!」
タケシが僕を縛る髪の束を断ち切ろうとするが、背後から伸びてきた金髪に縛り上げられてしまう。
「アハハハッ。どうかしら、シークレットアイテム『金色人形』の力は」
高笑いする女の手元には、青い瞳に金髪の人形が抱かれている。その髪が異様に伸びて地面に突き刺さり、僕とタケシを縛り付けている。異様な弾力と硬度で、いくら力を入れても切れない。
「クソッ、きりがないよ!」
シズカをかばいながらスネオが襲いかかる髪を切り続けるが、圧倒的な物量の前についに限界を迎える。二人は全方位から飛びかかる金髪に自由を奪われる。
「ふん、お兄ちゃんの手を煩わせるまでもなかったわね」
金髪をかきあげて微笑むのは、『銅鑼魅(DORAMI)』
その顔に、いつか見た優しい微笑みは無い。あるのは毒を含んだ妖艶な顔。
拘束する金髪が、きつく僕らを締め付ける。けれど、なによりも痛いのは、かつての僕らの仲間が、いまは僕らに牙を剥いている。その事実だった。
「銅鑼魅ちゃん、どうして!」
シズカの悲痛な叫びが木霊する。けれど、その叫びは彼女には響かない。
銅鑼魅はゆっくりとシズカに歩み寄る。
「どうして? それは私の台詞よ。どうしてあなたたちはお兄ちゃんに逆らうのかしら?」
口元を吊り上げて笑う銅鑼魅。
「素敵じゃない。いまやお兄ちゃんは全てを超越した存在。何者も止めることは出来ないわ。まさに、人の作り出した神とでも呼べるべき存在よ」
「そんなの、怒羅ちゃんじゃないわ!」
ぱぁん、と甲高い音が響く。銅鑼魅の手がシズカの頬をはたいていた。
それでもシズカの瞳は、力強く銅鑼魅を見据える。
「やめろッ! シズカちゃんに手を出すな!」
必死で拘束を解こうとしながら、僕は叫ぶ。銅鑼魅はそんな僕に向かって、ひどく嬉しそうに笑う。
「ふふっ。ノビタさん、そんなにこの娘が大事?」
銅鑼魅は僕に近づいてきて、その指でそっと僕の顎を持ち上げる。キスでも誘うように。
「ねぇ、助けてあげようか」
「……?」
銅鑼魅は、悪魔のように微笑んでこういった。
「私に服従して、一生お兄ちゃんに仕えると約束したら、あなた以外のみんなを助けてあげる。どう?」
「………!」
思考の止まった僕に、みんながっ叫ぶ。
「ノビタあああっ、そんなヤツのいうことを信じるなぁっ!!」
「騙してるにきまってるだろ、ノビタァ!!」
「ノビタさんっ、ダメっ!!」
「ど・う・す・る、ノビタさん?」
声が脳内で乱反射して、僕の頭蓋をかき乱す。
誰もが僕の名前を呼ぶ。
迷う。迷う。迷う。
決断を迫られる。
「―――――――――わかった」
時が、止まった。
「あっはははははははははははははははははははは」
銅鑼魅の狂ったような笑い声が聞こえた。
けど僕は何も感じない。
何かが凍てついていた。
銅鑼魅が、僕を引き寄せる。
「さ、ノビタさん」
銅鑼魅が唇を差し出す。僕はゆっくりと、その禍々しく赤い唇に口づけた。
「………ノビタさん……」
シズカの声が、静止した時間に響いた。
その瞬間。
右手に伝わる感触で。
僕は目を見開く。
拘束の緩んだほんの一瞬を逃さず、右袖から飛び出した小型拳銃を、僕の変わりに銅鑼魅に口づける。
凍りついた時間が、今度は彼女から時間を奪った。
「ごめん………」
走馬灯のように過ぎる思い出を振り払い、僕は引き金を引いた。
D-RPG三話。
普通に小説一本書ける内容ですね。
「銅鑼魅」の魅は「魅惑」の魅。
だって女の子ですから。