D-RPG第三話 「決断」



「!!」

 地面から噴出してきた金色の髪に、僕の四肢は拘束された。

「ノビタぁッ!」

 タケシが僕を縛る髪の束を断ち切ろうとするが、背後から伸びてきた金髪に縛り上げられてしまう。

「アハハハッ。どうかしら、シークレットアイテム『金色人形』の力は」

 高笑いする女の手元には、青い瞳に金髪の人形が抱かれている。その髪が異様に伸びて地面に突き刺さり、僕とタケシを縛り付けている。異様な弾力と硬度で、いくら力を入れても切れない。

「クソッ、きりがないよ!」

 シズカをかばいながらスネオが襲いかかる髪を切り続けるが、圧倒的な物量の前についに限界を迎える。二人は全方位から飛びかかる金髪に自由を奪われる。

「ふん、お兄ちゃんの手を煩わせるまでもなかったわね」

 金髪をかきあげて微笑むのは、『銅鑼魅(DORAMI)』

 その顔に、いつか見た優しい微笑みは無い。あるのは毒を含んだ妖艶な顔。

 拘束する金髪が、きつく僕らを締め付ける。けれど、なによりも痛いのは、かつての僕らの仲間が、いまは僕らに牙を剥いている。その事実だった。

「銅鑼魅ちゃん、どうして!」

 シズカの悲痛な叫びが木霊する。けれど、その叫びは彼女には響かない。

 銅鑼魅はゆっくりとシズカに歩み寄る。

「どうして? それは私の台詞よ。どうしてあなたたちはお兄ちゃんに逆らうのかしら?」

 口元を吊り上げて笑う銅鑼魅。

「素敵じゃない。いまやお兄ちゃんは全てを超越した存在。何者も止めることは出来ないわ。まさに、人の作り出した神とでも呼べるべき存在よ」

「そんなの、怒羅ちゃんじゃないわ!」

 ぱぁん、と甲高い音が響く。銅鑼魅の手がシズカの頬をはたいていた。

 それでもシズカの瞳は、力強く銅鑼魅を見据える。

「やめろッ! シズカちゃんに手を出すな!」

 必死で拘束を解こうとしながら、僕は叫ぶ。銅鑼魅はそんな僕に向かって、ひどく嬉しそうに笑う。

「ふふっ。ノビタさん、そんなにこの娘が大事?」

 銅鑼魅は僕に近づいてきて、その指でそっと僕の顎を持ち上げる。キスでも誘うように。

「ねぇ、助けてあげようか」

「……?」

 銅鑼魅は、悪魔のように微笑んでこういった。

「私に服従して、一生お兄ちゃんに仕えると約束したら、あなた以外のみんなを助けてあげる。どう?」

「………!」

 思考の止まった僕に、みんながっ叫ぶ。

「ノビタあああっ、そんなヤツのいうことを信じるなぁっ!!」

「騙してるにきまってるだろ、ノビタァ!!」

「ノビタさんっ、ダメっ!!」

「ど・う・す・る、ノビタさん?」

 声が脳内で乱反射して、僕の頭蓋をかき乱す。

 誰もが僕の名前を呼ぶ。

 迷う。迷う。迷う。

 決断を迫られる。

「―――――――――わかった」

 時が、止まった。

「あっはははははははははははははははははははは」

 銅鑼魅の狂ったような笑い声が聞こえた。

 けど僕は何も感じない。

 何かが凍てついていた。

 銅鑼魅が、僕を引き寄せる。

「さ、ノビタさん」

 銅鑼魅が唇を差し出す。僕はゆっくりと、その禍々しく赤い唇に口づけた。

「………ノビタさん……」

 シズカの声が、静止した時間に響いた。

 

 その瞬間。

 右手に伝わる感触で。

 僕は目を見開く。

 

 拘束の緩んだほんの一瞬を逃さず、右袖から飛び出した小型拳銃を、僕の変わりに銅鑼魅に口づける。

 凍りついた時間が、今度は彼女から時間を奪った。

 

「ごめん………」

 走馬灯のように過ぎる思い出を振り払い、僕は引き金を引いた。

 

 


D-RPG三話。
普通に小説一本書ける内容ですね。
 
「銅鑼魅」の魅は「魅惑」の魅。
だって女の子ですから。







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