耳障りな奇声と共に、20センチくらいの大きさの赤い物体が、僕らに襲い掛かってくる。『未児怒羅(MINIDORA)』の大群だ。
僕は撃鉄に左手を添え、45口径の連射を赤い物体の脳天に叩き込む。三匹が頭脳をショートさせて倒れるが、一匹が僕に襲いかかる。
(後ろにはシズカが)
そう思った瞬間、僕は右腕を『未児怒羅』に向けて差し出していた。
「ノビタさんっ」
シズカが悲鳴を上げると同時に、嬉々として僕の腕に『未児怒羅』が噛み付く。コートを突き破た歯が、肉に食い込んでくる。
僕は激痛に耐えながら、瞬時に右手の銃を左手に持ち替えると、『未児怒羅』のこめかみに銃弾を撃ち込んだ。火花を飛び散らせ『未児怒羅』が落下する。
だが休む間もなく無数の『未児怒羅』が襲いかかる。
倒れたノビタを無視して、シズカの方へ。
「シズカちゃんッ!」
応戦しようと杖を構えるシズカだが、数が多すぎる。
すぐさま銃口を向けるが、傷が思いのほか深く手の震えが止まらない。
「くそぉぉッ!」
ノビタの痛恨の叫びが響いたとき、『未児怒羅』の軍勢が横手に吹き飛んだ。
そこには、巨大な戦斧を振るったタケシが立っていた。
「大丈夫か」
「タケシさん、ありがとう」
シズカがほっとした様子で胸を撫で下ろす。
その肩を、スネオがぽん、と叩く。
「ノビタを回復してやってて」
シズカは頷いて、僕の下へとやってくる。
「いくぞぉぉッ、スネオッ!」
「了解、ジャイアンッ!」
二人は言うが否や疾走して、見事なコンビネーションで『未児怒羅』を撃破していく。少し歯がゆかったが、自業自得だ。僕はシズカの治療に専念することにした。
「ノビタさん。腕を見せて」
破れたコートを捲り上げると、食いちぎられた腕が見える。傷は骨まで達していたようだ。シズカは一瞬躊躇したが、すぐに呪文の詠唱をはじめる。
「…全ての母なる大地よ…傷痕の子らに祝福を……」
詠唱と共に、杖の先端に淡い光が宿る。その燐光を傷口に触れさせると、僕の受けた傷は、ビデオの逆再生のように塞がっていく。
治療を受けている間に、僕は空薬莢を排出し、弾丸を装填する。
「…あまり無茶はしないでね」
「こんなもの、かすり傷だよ」
シズカの言葉に、僕は嘘ぶく。けれどもシズカは「そうじゃないの」と首を横に振る。
「あなたにはみんなが…仲間がいる。みんなの気持ちは同じ。DORAちゃんのことは、あなた一人の問題じゃないわ」
「………うん」
シズカの言葉に、僕は頷く。
けれど、心のどこかには「僕がやるべきことなんだ」という気持ちを否定できないでいる自分がいる。
けれどその感情は、銃の装填完了と同時に、心の奥底にしまいこんだ。
右手は完治した。
「ありがとう」
シズカに一声をかけて、僕はタケシとスネオの下へと向かう。
疾走してくる僕に先に気づいたスネオが、前衛で闘うタケシにも聞こえるように叫ぶ。
「ジャイアン、一気に片付けるよぉっ!」
「おうッ、まかされろぉぉぉッ!!」
力強い返答に、笑みを浮かべたスネオ。
ジャイアンは戦斧をたくみに操り『未児怒羅』達をほぼ同じ場所に吹き飛ばしていく。
背後から疾走してきたスネオは、タケシの肩をかりて大きく跳躍すると、マントの内側から取り出した筒型爆薬を一気に『未児怒羅』の群れへと投擲する。
「ノビタぁぁぁッ!」
スネオの合図で僕は立ち止まり、投げられた爆薬へと意識を集中させた。
6発の銃声が一発に聞こえるほどの早撃ちで放たれた弾丸は、まるで誘導されるかのように、スネオの投擲した爆薬へと着弾した。
爆圧と熱波が『未児怒羅』へと降り注ぎ、赤い大群を消滅させた。
D-RPG二話。
すっごく楽しいです。きっと僕だけでしょうが。
しかし『未児怒羅』って、普通に暴走族センスな名前ですね。