屋上



「ん、拓海か? こんなところで何やってんだ?」

『やあ、浅鷹。いやね、ちょっと考え事をしてるんだ』

「考え事? 色恋沙汰なら喜んで相談にのるぞ」

『違うよ。ふと思ったことさ』

「聞かせろよ」

『つまらなくてもいいかい?』

「聞くだけ聞くんだから、別に構わんぞ」

『わかった、教えるよ。 実はね、人間が死んだらどこへ行くのか考えてたんだ』

「……えらく哲学的だな、おい」

『そうかい? ふと不思議に思っただけなんだけど…』

「そういうのをふと思うのが、哲学的っていうんだ」

『そうなの?』

「まぁいい。 で、答えは出たのか?」

『ううん、全然』

「だろうな。」

 

『ねぇ、浅鷹はどう思う? 死んだら人間は何処にいくのかな?』

「俺に答えろと?」

『うん』

「そうだな…。一般論において、死んだ人間は天国か地獄に行くらしいな」

『そうだね』

「じゃあ聞くが拓海。天国ってのはどこにある?」

『え? うーん………雲の上、かな』

「雲の上には宇宙はあっても、天国はないぞ」

『……そっか。』

「じゃあ、地獄ってのはどこにある?」

『………地面の下かい?』

「地面の下は土だ。そのまた下は地球の中心だ。それを突き抜けたら地球の反対側だ。地獄はないぞ」

『……そっか。 じゃあ浅鷹は天国や地獄がどこにあるか知ってる?』

「知らん」

 

 

『ところで、質問の答えは?』

「あせるな、次の質問だ。人間には心があるって言われるが、じゃあ心ってのは何処にある?」

『え? そうだなぁ………身体の中心かな』

「身体には内臓と骨と肉しかないぞ」

『……そっか。 じゃあ脳の中かな』

「確かにそこならあるかもな。考えるってことをするのは脳だからな。じゃあ脳に心があるってことは、どうやって確認すればいい?」

『え?』

「言っておくが、脳を解剖したって何も見えないぞ」

『確かにそうだね』

「それに最近じゃ、人間が考えるって行動を起こすのも、DNAやら塩基配列とやらに組み込まれてるプログラムだっていう説もあるしな。俺達がいう心ってものも、実はただのプログラムかもしれない」

『あらかじめ決められてるってことかい?』

「そうだな」

『なんだかRPGみたいだね。あれはプログラムされた答えを探していくものだからさ』

「いい例えだ。俺達が今話してることも、一種のイベントってワケだ」

 

 

『……でさ、結局何が言いたいの、朝鷹は』

「わからん」

『え?』

「というのは嘘だ」

『良かった』

「さっきまでの話を統合すると、俺の答えが出てくるんだ」

『……………よくわからない』

「そういうことだ」

『え?』

「この世の中には、俺達の理解できないことが山ほどあるってことだ。科学者やら哲学者やら、はたまた天才って呼ばれていた奴らが、追い求めても届かなかった答えなんて腐るほどある。俺達みたいな一般人じゃ、分からないことだらけだ」

『そうかもね』

「死んだ後何処に行くかなんて、実際に死んで見なけりゃ分からない」

『そうだね』

「だったら、死んだ後に分かればいい」

『なるほど』

「今考えたって分からないものに時間を割くのは、時間の無駄遣いってもんだろ?」

『そうかもね』

「だったら考えなくてもいいだろう。後で分かることなんだからな」

『つまり、いますぐには分からないっていうのが、朝鷹の答えなんだね』

「そういうことだ」

『なるほど』

 

 

「参考になったか?」

『うん、ありがとう』

「じゃ、お前は今からどうするんだ?」

『そうだね……。 僕はやっぱり今いろいろ考えてみようと思うんだ』

「なんでだ?」

『だって答えが分からないほど、考えるのは楽しくないかい?』

 

 

「……やっぱりお前って変な奴だ」

『君もね』







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